大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)770号 判決 1963年4月26日

判   決

京都市下京区西洞院通四条下ル妙伝寺町七〇九番地

控訴人

北浦長七

右訴訟代理人弁護士

山村治郎吉

同区不明門通五条上ル玉屋町五〇八番地

被控訴人

佐藤豊三郎

右訴訟代理人弁護士

杉島勇

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の仮処分取消申立を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。(以下省略)

理由

一、被控訴人(仮処分債務者)と控訴人(同債権者)との間の、京都地方裁判所昭和三五年(ヨ)第五七六号仮処分申請事件につき、同裁判所が、同年一二月二八日、被控訴人の、株式会社丸万西洞院市場代表取締役及び取締役たる職務執行を停止し、右職務代行者を石山豊太郎と定める旨の仮処分決定したので、被控訴人が同裁判所に対し、右仮処分の本案訴訟提起命令を申立て同裁判所において、同三六年一月二五日、命令送達の日から一四日の期間内に本案訴訟を提起すべき旨の起訴命令を発し、同命令が同月二六日控訴人代理人に送達されたところ、控訴人が本案訴訟を提起していないことは当事者間に争いがない。

二、被控訴人は、本件仮処分の執行が、仮処分を取消す旨の仮執行宣言付原判決の仮執行によつて取消され、もはや本件仮処分は存在しないから、本件控訴は理由がないと主張するけれども、仮処分の執行が、仮処分を取消す旨の仮執行宣言付一審判決の仮執行によつて取消されても、二審裁判所においては、仮執行がなされなかつたものとして審理判断すべきものであることは仮執行の性質上多言を要しないところであるから、被控訴人の右主張はそれ自体理由がない。

三、控訴人は、本件起訴命令が控訴人に送達された後である同三六年二月一日、被控訴人が前示会社の代表取締役及び取締役を辞任し、同年五月一六日その旨の登記がなされ、その後、右登記事項が、同三五年一一月二五日取締役を任期満了により退任し代表取締役を失格により退任した旨に更正登記されているが、いずれにしても、被控訴人は、本件仮処分の取消を受けることにより回復さるべき取締役の地位を既に失つているのであるから、本件取消を申立てる利益がないというべく、その反面、控訴人において本件仮処分の本案訴訟たる取締役解任の訴を提起しても、訴の利益がないとして棄却されるに至ることが明かであることから考えても、本件申立は棄却さるべきであると主張し、右各登記がなされ、被控訴人が現在前示会社の代表取締役及び取締役の地位を失つていることは当事者間に争いがないところ、本件仮処分決定が存在しているものとみられる限り、被控訴人が既に右会社取締役たる地位を失つたからといつて、直ちに本件仮処分取消を申立てる利益を失つたということができない。又、成立に争いのない疏乙第一号証により疏明される、本件仮処分の本案訴訟が取締役解任の訴であることから、控訴人が右訴を提起しても訴の利益なしとして棄却さるべきことは明かであるけれども、これをもつて本案訴訟不提起を正当ずける理由とし難いところである。否、却つてかかる場合にこそ本案訴訟不提起を理由として仮処分を取消すべきものであるから、いずれの点よりしても、控訴人の主張は採用することができない。

四、してみると、起訴期間徒過を理由として本件仮処分の取消を求める被控訴人の申立を認容した原判決は結局正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文の通り判決する。

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 小野田 常太郎

裁判官 柴 山 利 彦

裁判官 下 出 義 明

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例